星女神:アストライア
「さあ……見せてください、あなたの【正義】を。この世界に、新しい価値観をもたらすのです」
選ばれし者だけがたどり着けるという暁の天界……
そこに、彼女は住まう。
天の彼方ではさまざまな事象が交差していて、普通の人間ならば即座に均衡を失ってしまう。
けれど優れた神である彼女は、平然と、にこやかに、あらゆることへと正しい判断を行うことができる。
正義――すなわちJUSTICEとは、彼女にとって正統性と正当性を示す。
彼女の前では、いかなる不正もできない。
神は天上で、挑戦者を待っている。
天の召喚
「天から見守る立場にいる私は、それを確かめます。天を訪れるに相応しい存在である、あなたを」
私の呼び声に応えてくれたのは、あなたですね?
それでは早速ですが……
あなたが落としたのは金の斧ですか?
それとも銀の……えっ、違う?
……失礼しました。
改めて確認します。
あなたは【接続された存在】です。
そして【傑出した才】を、天に認められました。
天から見守る立場にいる私は、それを確かめます。
天を訪れるに相応しい存在である、あなたを。
これから【さらなる次の世界】にいざなえるかを。
……ところでこの斧、いりません?
天と過去
「かつては、私も地上にいました。人と同じ視点に立ち、人のことを見ていたのです」
何からお話しすればよいでしょう……?
まず、私とあなたが今いるここは、【天界】。
星に手が届く世界です。
怖がらずに、ちょっと下をご覧なさい。
すべてが見えるでしょう。
ああ。私も実のところ、高い場所は苦手です。
かつては、私も【地上】にいました。
人と同じ視点に立ち、人のことを見ていたのです。
昔……黄金時代。まだ人は、個々に生きていました。
続く白銀時代には、人々は協力できるようになりましたが、反面、想いの異なる人同士は、いがみ合います。
そして銅の時代となり、人は皆、武器を持って争い始めました。まるで、それが必然だったように。
世の中は便利になりました……けれど、便利さとは何なのか、それは人によって異なる。
それが【戦いの火種】となるのです。
失楽の暁
「欲望と統制が、共に行きすぎた人の世。もはやそこには、人にとっての利便性もありません」
そして鉄の時代が来ました。
地上はより豊かになりましたが、同時に、混沌と欲望に満ちあふれました。
人々を巡る争いは大きくなり、そこで彼らの統率のために立ち上がる者が出ました。
法による絶対的統制を行う、法の権威者。
彼らは【誤りを行うことは罪】であるとし、自分たちと法を犯す者たちとの間に、一線を引きました。
結果、行きつく先は過剰な統制。
そして、それにあくまで抗う、過剰な欲望。
両者は争い、自分たちの住処のみならず、神々の居所さえも破壊し、神たちは去っていくことになります。
欲望と統制が共に行きすぎた人の世となり、もはや、人にとっての利便性も消え去ってしまいました。
最後まで神の居所にいた私も、ついに天に逃れます。
そのとき、地上は血で真っ赤に染まっていました。
この【天を紅に染める暁】は、その名残です。
正義を測る天秤
「誤ることを恐れては、正義は成せません。少なくとも私は、そう考えています」
すみません、前置きが長くなってしまいました。
罪とはいったいなんでしょう?
かつて地上で、誤りが罪とされたことは前述です。
しかし、誤ることを恐れては【正義】は成せません。
少なくとも私は、そう考えています。
けれど、正しいことを正しいと判断するためには一定の【判定基準】が必要になります。
人の気持ちというのは、簡単に測れないものです。
それでも私は【天秤】にかけねばなりません。
神の私が、人の価値観を、便宜上使って。
我ながら、ちょっと変な気もしてるんですけど。
ただ、ごめんなさい。
そうしないと人々の中から【選ばれし者】を選ぶことができないのですよ……
でも今、接続された存在としてここに立っているあなたには、充分な【資格と才】が備わっています。
安心してくださいね。
心の連鎖
「繋がること、つまり心を連鎖するのです。人は通じ合える……なんとも素晴らしい!」
私は天界に逃れた後、人の世が滅びから立ち直っていくところを、ずっと見ていました。
だから私も、人を信じる気持ちを思いだしたのです。
価値観は人それぞれ……あくまでも人の言う【正義】とは、相対的な判断によるものです。
けれど正義の存在は皆が等しく信じることができる。
信じる心こそを、私は、自分の天秤にかけます。
人に備わった共通の気持ちは、【遠隔地にいる人々】をも【ひとつの心に繋ぐ】ことができます。
互いを信じようと思う心さえあれば、どれだけ離れていても、人は通じ合うことができるのですね……
これが【心の連鎖】です。
なんとも素晴らしい!
天にいる孤独な神の私には、為し得ない。
人ならではの、正義の行いですよ!
……私も、誰かと繋がってみたいなあ……あ、いえ。
英断
「天秤と共にあるこの剣は、空を裂くことができるのです」
翼を得た星乙女の神である私。
天界からは、すべての人の相対が一望できます。
そしてそれぞれの人々から導かれた、正義の価値観。
天秤にかけられたそれを、皆が共有できるひとつの正しい行いへと変えるのは、神である私のつとめ。
天秤と共にあるこの剣は【空を裂く】ことができるのです。
天空には人々の心に繋がる【見えぬ琴線】があって、私はそこから義心に繋がるものを束ね、そうでないものを断ち切る。
その行為には、決然とした【英断】が要求されます。
責任は重大です。
時折、私ひとりでは決めかねることがあります。
相談できる他の神が、今は天に不在です。
そこで……あなたの出番というわけなのです。
神に近しい【英智】が、選ばれし者であるあなたには備わってるはずですよ! さあ、決めてください!
天頂の奏者
「天界には人々の意思を束ねた見えぬ琴線が幾多も存在しています。天には、その奏者が必要なのです」
あなたなりの英断ができましたか?
それでは、【天頂】へと行きましょう。
そこに辿り着けば、【さらなる次の世界】をあなたのために、私はもたらすことができます。
……何故、あなたにそうまで世話をするのかって?
お話ししたとおり、この天界には人々の意思を束ねた見えぬ琴線が幾多も存在しています。
天には、その【奏者】が必要なのです。
この奏者は、地上の特定の秩序にも欲望にも決して囚われず、また不正を行わないことが求められます。
ああ。奏者となるのは、私には無理です。
ご覧の通り、私の両手は天秤と剣でふさがっていますからね……ふふふ。
あなたは資質を持った、接続された存在です。
あなたならば、きっと【世界の天望】を、その手で自在に操ることができるようになるでしょう。
じゃ、期待してますねー。
天と地の駆け引き
「あら……まだ何か迷いがありますか?英雄は迷わないものだと思っていましたが……」
英断ができる人のことを、人は【英雄】と呼びます。
あなたは既に、相応しい能力を身につけました!
誰ももう、あなたの【正義】をとがめないでしょう!
あら……まだ何か迷いがありますか?
英雄は迷わないものだと思っていましたが……
それはきっと、まだあなたが地上に残っている人と、【争ってみたいと思う気持ち】からでしょうね。
あなたは選ばれた英雄なのだから、わざわざ戦うまでもなく、正しい判断だけを行っていればいいのに。
それとも、地上そのものに未練がありますか?
あなたには、天に永遠に住まうだけの覚悟がないと?
うーん……それはちょっと困ってしまいますね。
でも今一度、考えてもみてください。
地上には四季がありますが、天高いここにはない。
個人の意思に沿わない天地の相性で困らされることはまったくないんですよー。
だから、【悩む必要はない】じゃないですかー。
神も誤るか
「でも……英雄のあなたが行動しなくては。正義のなんたるかを人々に伝えることは、難しい」
どうしたんでしょう? 私の思い違いでしょうか?
あなたが【すべての正義の判断】をしてくれて、私の【代行者】になるのだと思っていたのですが……
も、もしかして、私が人選を誤ったのでしょうか。
いえ……私は、そう思いたくはないのです。
私の判断能力如何ではなくて、あなたの才は必ず、確実に、充分にあるものだと信じているから。
もしも私の【正義に対する信頼】が揺らぐとしたら、それは天界だけではなく、地上にも大変なことです!
英断された正義が疑わしいことになったら、天界の存在そのものが【転覆】しちゃいますよ!
そんなことになったら【世界の終わり】です!
誰にも、そんなことはさせません。
私の正義は絶対です。
でも……英雄のあなたが行動しなくては。
正義のなんたるかを人々に伝えることは、難しい。
英雄の集う庭
天の女神は一度地上に絶望したが、新たな希望を求め、英雄を天の庭へと呼び寄せた。本当の戦いが始まる。
なるほど、理解しました。
人にとっての正義はやはり、人それぞれのもの。
けれど、それでも英雄は、人々の先導となって。
そして【新しい価値観】を示すのです。
私もあなたの力となりたい……もしも、あなたがただ独りでは不安だというなら、こうしましょう。
……握った手を、放さないでください。
これから【英雄の座を求める他の者】たちが来ます。
彼らは各々【異なる正義】を抱いているでしょう。
その上で【真実の奏者】たらんとしています。
皆、人の琴線に触れる者となろうとしているのです。
さあ、あなたはどうしますか?
そう……【あなたの正義はあなただけのもの】……
けれど【あなたには私がついている】。
今こそ、正義を示す時です。
共に行きましょう。私たちの世界のために。