マゼラン・マゼラン ストーリー

EPISODE1

マゼランは宇宙人である
「ワタシはマゼラン・マゼラン。地球名は大橋 銀子。とある事情で地球の学校に編入したいんだな~」

『マゼラン・マゼラン』はマゼラン星雲で暮らす宇宙人女子である。
マゼラン星人は頭に不思議な触覚があったり、普段から謎の光線銃を構えているものの、外見は地球人のそれとはあまり変わらない。

また、マゼラン星人はとても友好的な性格である。
彼らは高い技術力で宇宙船を作り、他の星に旅行をしたり、留学をしたりして異星間交流に努めている。

『マゼラン・マゼラン』……地球名『大橋 銀子』もまたそんなマゼラン星人の1人だ。
彼女は2115歳。地球人に換算すると15~16歳であり、高校に入学する頃合である。
そんな彼女が選んだのは地球の高校だった。
とある地域の進学校、彼女にはどうしてもその進学校に入学したかった『事情』があったのだが……。

「なっ! なっ!……ふ、不合格なんだなぁ~~っ!?」

……どうやら彼女は進学校に入学できなかったようだ。

EPISODE2

入学試験はまさかの落第
「愛しの先輩のためにわざわざ遠い地球の進学校を受験したのに……落第なんて酷いんだな~!」

マゼランが地球の進学校に入学したかった理由。
それは別に『故郷の星を救いたい』とか、『憎き仇を追って』とかいう壮大なものではない。
だけど彼女には宇宙に匹敵するほどの重要な理由だ。

マゼランがわざわざ故郷のマゼラン星雲を離れ、辺境と言ってもいいほどに遠い地球の高校に進学しようと決意した理由……それは『恋』のためだ。
マゼランの想い人――彼の名は『フェルディナンド=カジキ』。マゼランよりも1学年上の青年だ。
眉目秀麗、文武両道、智勇兼備……これらの言葉はまさに彼のためにある。しかしあまりある才能を彼は決して鼻にかけるような真似はしない。まるで春風のように爽やかな美青年なのだ。
そんなおとぎ話の王子様のような青年、女子なら誰でも憧れるだろう。マゼランもその1人だった。
だがカジキが『宇宙外交官』という将来の夢のために地球のとある進学校に進んだ際、多くの女子は彼への恋心を卒業することとなる。
そんな中、1人だけカジキの後を追う決意を固めた少女……それがマゼランだったのだ。

「待っててほしいんだな。カジキ先輩……今、貴方のマゼランがお傍に行くんだな!」

……ここで一言断っておくと、マゼランとカジキは仲良しの先輩後輩という訳ではない。それどころか彼らは会話すらしたことがない。
それなのに、ここまで突っ走れる。そんな恐るべき行動力と妄想力がマゼランの原動力であった。

EPISODE3

目指せ転校なんだな~!
「こうなったら転校しかないんだな~!テストなんて ホホイのホイで……ん? カンニングはダメ?」

せっかく愛しの先輩を追って地球の高校を受験したというのに……試験の結果はまさかの『不合格』。
合格できたのは普通科高校だけだった。
「こんなの予想外過ぎるんだなぁ……」
普段は能天気そのもののマゼランだが、流石に今回ばかりは落ち込んでしまったようだ。

「こうなったら! 先輩のいる進学校に転校しかないんだな~! まずはテストで良い点を取るんだな!」
マゼランの決断は早かった。
けれども先輩の学校はスーパー進学校。これからのテストで良い成績を残さなければ、とてもではないが転校などできないだろう。
だがマゼランには『テスト勉強をする』という概念はない。彼女は『努力する』ということが大嫌いだった。
そんなマゼランはテストに向けて、教科書という教科書を腕や体、机に書き写した。
そう彼女は『カンニング』を実行したのである。

……しかし相手は生徒のカンニングと戦い続けた歴戦の戦士、先生だ。マゼランのカンニングはあっさりとバレてしまい、挙句の果てには遥か故郷の両親まで呼び出されて注意をされてしまう。

「お、おのれぇ~……今度こそ完璧なカンニング方法を編み出してやるんだなぁ~!」
「……というか、大橋? 教科書を丸ごと書き写すなら、最初からちゃんと勉強した方が早いと思うぞ?」
ちっとも懲りないマゼランに、流石の先生も呆れ顔だ。

EPISODE4

先生と進路相談で
「『転校は諦めなさい』だなんて……酷い! さては おまえは先生に化けた悪のエイリアンなんだな~!」

カンニングに失敗したマゼラン。
当然ながら、テストの結果は散々だった。
だがマゼランに『撤退』や『諦め』の文字はない。
『先輩が通う進学校に転校する』
これは既に彼女の中では決定事項なのだった。
そんなマゼランを担任の先生は頭を抱えながら諭す。

「大橋……残念ながら、あの進学校はお前の成績ではほぼ無理だ。諦めなさい」
「先輩の学校に転校できる確率は0%なんだな?」
「0%とは言わないが……」
「なーんだ! 1%でも可能性があるなら、らくしょーだな~。ワタシと先輩のらぶらぶぱわ~でなんとかなるんだな~」

妙に自信たっぷりな笑顔を浮かべるマゼランに、慌てて先生は補足する。
「いや! 確かに0%ではないが、今の学力では到底無理だ! まずはちゃんと勉強をして……」

必死にマゼランを説得しようとする先生だったが、彼女にはそれがちっとも理解できないようだ。

「なんでそんな意地悪言うの? さてはお前は先生じゃなくて、悪のエイリアンM33星人なんだなッ!?」

……最終的にマゼランは自慢の光線銃を取り出し、マゼラニックストリームを先生にぶちかまそうとしていたところを、騒ぎを聞きつけた他のクラスの先生に取り押さえられたのだった。

EPISODE5

勉強はエネミーだらけ!
「う~ん。勉強しようとしても、睡魔やゲームという エネミーが襲ってくるんだな~……諦めよっと!」

中間試験が散々だったマゼラン。今度の模試は絶対に良い点を取らなければならない!
だがこの期に及んでマゼランはまだ、中間試験の結果は『きっと試験を添削する機械の故障だな~』などと思っていた。
そんな彼女にクラスの友人たちは溜息交じりに言う。
「ねえ、銀子ちゃん? ちゃんと勉強してみたら?一度だけでいいから」

こうして仕方がなくマゼランは生まれて初めてまともにテスト勉強をすることとなった。
「うーん。まずはテスト範囲の確認から……ぐぅ!」
なんとマゼランは教科書を開いた3秒後に、眠りに落ちてしまった。
そして思い切り机に額をぶつけて目を覚まし、悶絶しながら呪いの言葉を吐く。

「お、おのれぇ~……M33星人の攻撃かぁ~?」
部屋の中を見回して敵の姿が無いことを確認したマゼランは首をかしげながら、ぼやいた。
「……うーん。ちょっと気分転換をするんだな~!」

その後もマゼランは『居眠り』『漫画』『テレビ』『ゲーム』……数々の誘惑に負け、その度に悪のエイリアンのせいにしていた。
そして最終的には……。
「……よーし! 諦めるんだな! ワタシにはテスト勉強って向いてないんだな!」
マゼランは鮮やかにテスト勉強を諦めたのだった。

EPISODE6

模試という中ボス現る!
「模試に向けて転がすと1/2の確率で答えが分かる 鉛筆を開発したけど転がす音で怒られたんだな~」

いよいよやってきた模試当日。
テスト勉強を一切していないマゼランには、模試という『中ボス』に挑むための秘策があった。
それはマゼラン星雲の科学技術を駆使して『転がすと1/2の確率で答えが分かる鉛筆』を開発するということだった!
ここで断っておくと、これはマゼランに発明の才能があるという訳ではない。これしきの発明はマゼラン星人であれば靴紐を結ぶと同じくらい容易いことなのだ。
しかし善良なマゼラン星人には、こんな下らないことに自慢の科学力を使うという発想がなかっただけである。

……だが下らない策であろうと、策は策。
マゼランは自信満々の様子で鉛筆を転がし始めた。
(ふっふーん♪ これで模試なんてらくしょーなんだな~! ばきゅん! ばきゅん!)
調子良く鉛筆を転がしていたマゼランだったが……。
「おい! 大橋! 真面目にやれ! そんなことじゃ転入試験なんて合格できないぞ!」

『遊んでいる』と思われたマゼランは、先生に必殺の鉛筆を取り上げられてしまった。
だがマゼランは挫けない。そして理解しない。

(そ、そっか! 先生の言うとおりなんだな!鉛筆を転がしたら音が目立っちゃうんだな!それにこれじゃあ選択問題にしか対応できないし!)
先生の言葉を取り違えたマゼランは、さらなるテスト用アイテムの開発を決意したのだった。

EPISODE7

運命の本試験!
「ついに本試験なんだな~! でもワタシには この特製マゼラン眼鏡があるから余裕なんだな~!」

運命の本試験。
目の前に現れた最大の敵(エネミー)転入試験だ。

(ふっ……ふっ……ふっ……待っていたんだな!この日を!)

マゼランは目の下をクマで真っ黒にしながら不気味な笑みを浮かべる。
彼女はこの2~3日、徹夜の作業を続けていた。
もちろん、試験勉強ではない。
彼女は模試での反省を活かし、本試験に向けてあるアイテムの発明を試みていた。
それは……。

(じゃーん! 『スケスケ眼鏡』! この眼鏡でスキャンした物はその本質を暴かれる……テスト問題を見れば、その答えが自動的に表示されるんだな~!)

今回は、いかにマゼラン星人といえども中々難易度の高い発明だ。マゼランは今までの人生の中で初めて『努力』をしたのである……方向はかなり間違えているが。

こうしてマゼランは転入試験の『合格』ラインを突破したどころか、なんと史上初となる『満点』を取ることに成功し、憧れの先輩のいる進学校に転入する資格を手にしたのだった。

EPISODE8

アレと天才は紙一重?
「志望動機を聞かれたから『先輩とらぶらぶライフを 送るため』と答えたら、変な顔をされたんだな~?」

いよいよラスボス登場……先輩の学校に転入するための面接試験だ。
「大橋さん。貴女はかつてないほどの好成績……転入試験で全科目100点という偉業を達成したと聞く。そんな素晴らしい成績を収めた君は、どんな志があって我が校を希望するのかな?」

マゼランの不正について知らない面接官は、進学校創立以来の天才児が転入してくるということで、満面の笑みを浮かべ彼女と対面した。

しかしそんな面接官のことなど、何も気にしていないマゼランは意気揚々と答える。

「ワタシがこの学校に転校するのは~、先輩がいるからなんだな~。ここで先輩とぉ~、らぶらぶでぇ、ちゅっちゅっちゅなスクールライフを送るんだなぁ~!えっへっへぇ~!」

だらしない笑みで身をよじらせながら妄想に耽るマゼランを見て、面接官は思わずあっけにとられた。
だが、すぐに何かに納得したように首を上下に振る。

「はぁ……なるほど。まぁ、良くは分からないが……天才の考えは凡人には分からないのかもしれないねぇ」

こうしてマゼランは無事にカジキ先輩のいる進学校に転入することに成功したのだった。

EPISODE9

あ、あの女……許さん!
「憧れの先輩に会っても知らん顔。おまけに傍には エイリアンの女が!? 先輩に何をするだァーッ!」

先輩のいる進学校に転入したマゼランは、自分のクラスに行く前に彼のクラスに突撃していった。
「カジキせんぱぁーーいっ! 貴女のマゼラ……銀子がやってきたんだなぁ~!」
いよいよマゼランの妄想が実現する。

……ことはなかった。

愛しのカジキ先輩の直ぐ隣には、妖艶な女子生徒が微笑んでいたのである。
思わずブレーキをかけてしまったマゼランに、カジキ先輩は澱んだ目つきで問いかける。
「君は誰? どうして僕の名前を知っているの?……僕らの邪魔をしないで。出ていってくれないか?」
目を丸くするマゼランに追い打ちをかけるかのように先輩と女子生徒は人目もはばからず濃厚なキスをした!
(うわああああっ!? なっ! なっ!なんであんな女とズキュウウウン! と口づけを!?)
呆然としたマゼランの頭に周囲のクラスメイトたちの声が響いてくる。
「カジキ君……あの子と付き合うようになってから、なんか人が変わったよね」
(えっ……!? ま、まさかっ!)
マゼランは額にかけていた『スケスケ眼鏡』で先輩の彼女をスキャンする。
すると……艶やかな笑顔は煙のように消え失せて、グロテスクな容貌のエイリアンの姿へと変化した。
念のため、彼女の首元を確認すると……そこにはしっかりと悪のエイリアンM33星人の証であるハート型のあざが!
(あ、あれはっ! 間違いないっ! M33星人!ワ、ワタシの先輩に、なっ! 何をするだァーッ!)
マゼランは小さな拳をブルブルと震わせた。

EPISODE10

真夜中の決戦!
「やっぱり先輩は悪のエイリアンに洗脳されていた! えーい! 食らえ! マゼラニックストリーム!」

カジキ先輩を操る毒婦、地球人を装う悪のエイリアンM33星人をマゼランは夜の校舎に呼び出した。
「こんな夜更けに私を呼び出して何か用なの?」
「白々しいんだな。お前の正体はお見通し!出てこい! 悪のエイリアン! M33星人!」
「!? ……なぜ私の正体を!? く、クソッ!あのカジキという優秀な美青年を利用して、このまま地球を侵略してやるつもりだったのに!」

悪のエイリアンであるM33星人の本能は他者の侵略。
『自分の物は自分の物。他人の物も自分の物』という彼らのDNAに刻まれた絶対の掟があるのだ。
圧倒的な善性を有する(マゼランは例外だが)マゼラン星人とM33星人は宿命の敵と呼ぶのに相応しく古来より互いに戦い続けてきた歴史がある。
そして今まさに、この辺境の地・地球でも新たな戦いの火蓋が切られた!

最初はM33星人の優勢だった。
だが例え地球の平和はどうでも良くても、愛しいカジキ先輩の心が懸けられているマゼランは負けるわけにはいかない!

「……食らえっ! マゼラニックストリームッ!ばきゅんばきゅんばきゅんばきゅんばきゅん!」
「ば……バカなッ! ……こ…このワタシが……この私がァァァァァァーーッ!」
M33星人はマゼランの放った光線銃によって、滅ぼされ、こうして先輩の恋心と、ついでに地球の平和は守られたのだった。

EPISODE11

らぶぱわ~の大勝利!
「悪のエイリアンを倒した翌日、先輩はワタシに そっと微笑んだ。もう2人はらぶらぶなんだな~!」

悪のM33星人は滅んだ。これで無事にカジキ先輩の洗脳も解けたはず……。
次の日の朝、マゼランは校門の前で先輩を待ち伏せして、確かめることにした。

やがて先輩が颯爽と登校してくる。マゼランには遠くからでも彼の姿がはっきりと分かった。
(ああ……やっぱり先輩は素敵なんだな~)
先輩が近付いてくるにつれて、マゼランの鼓動はどんどん速くなっていく。

そして……マゼランと先輩がすれ違うその瞬間。

(あっ! せ、先輩がっ! 今、ワタシの顔を見て微笑んだんだな!?)

先輩の笑みは、昨日までの虚ろなものではなく、生来彼が持っていた春風のような爽やかなものだった。
その笑みを見て、マゼランは彼の洗脳が解けたことと彼の本気の想いを確信する。
(あ、あんな! 熱い視線を送ってきたってことは!……やっぱりワタシと先輩は赤い光線で結ばれているんだなぁ~! らぶらぶなんだなぁ~!)

……顔から湯気を出して身悶えるマゼランは知らない。
カジキ先輩の熱い視線は、彼女のすぐ後ろにいた学園のマドンナに向けたものだったということを。
だが、それはそれ。
こうして今日も地球は平和なのだった。

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